カメムシの話※虫が苦手な方は読まないほうがいいと思います
今年の夏は、虫を殺すことが多い。
まず、これまでは都内に住んでいたし。
部屋を換気しても網戸は必ず締めていたし。
外に出て虫が気になるのなんて、奥多摩にキャンプに行った時くらいだった。
けど今年は違う。
実家の夏は虫との戦いだ。
裏の杉林からは、蚊を始め、亀虫、てんとう虫、アブ、蜂などの虫がビュンビュン飛んでくる。
おまけに田舎の家というのはどうも、窓を開け放つ習慣が抜けないらしい。
網戸を締めることは少なく、家への虫の侵入はめっちゃ容易い。
刺されたらどうするんだ、蚊ならまだしも、蜂もいるのに。
と言うと、じいちゃんに、俺はスズメバチに三回刺されても死んでないから大丈夫、と言われるので話にならない。
あと、わたしは虫の羽の音が嫌いで(ブーン、という音)、普段はこころ穏やかな私も、虫の羽の音を聞くやいなやイライラメーターが振り切れてしまう。
特に嫌なのが亀虫だ。
都会で見る亀虫とは丈夫さが違う。ちょっとサイズも大きめだ。
亀虫が嫌なのは、ひとえにその警戒臭的なものを発するところだ。
亀虫のにおいを嗅いだことがない人は、そんなに?と思うかもしれないが、これは本当にえづくほど強烈だ。
中途半端に、殺虫剤をかけて半殺しにしたり、叩き殺してしまった暁には、その現場からは、耐えられないほど強烈な匂いが、少なくとも12時間は消えない。
亀虫に関していえば、思い出したくない思い出が一つあって、あえて書くと、
高校生の頃、秋くらいからよく黒いタイツを履いていた。その日も、洗濯から帰ってきたばかりのタイツを履いて、塾の自習室へ出かけた。
ちょっとつま先がチクチクするなぁ、と一瞬思ったかもしれないけれど、そんなことはすぐ忘れて、勉強をしていた。
ふと、トイレに行きたくなり、椅子から立ち上がった瞬間、足の指の中腹?あたりでなにかをブチッと潰した感触があった。
何かゴミでも入っていたのかな、もしかしたら虫?と思い、急いでトイレに向かいタイツを脱いだ。
その瞬間、トイレの個室内に強烈な匂いが充満した。(カメムシの匂いは、知覚されるまでタイムラグがある)
亀虫をタイツの中で潰してしまっていたのだった。
高校生の私は、素足でカメムシを潰してしまったことのショックをとりあえず置いておいて、テキパキと行動した。
素早くトイレットペーパーを大量に巻き取り、潰れた亀虫を厳重にぐるぐる巻きにし、さらに汚物用に掃除倉庫にあった小さいポリ袋に入れてゴミ箱に捨てた。
自分の足も、恥を捨てて(トイレには誰もいなかった)洗面台に足をのっけてジャバジャバ洗った。
ジャバジャバ洗っている時に、自分の足からカメムシの匂いがすることへの悲しさと、これまで気づかなかった悔しさがこみ上げて来て少し泣いた。
タイツはどうしようもなかった。靴を脱いで上がるタイプの塾だったので、タイツを濡らすわけにもいかず、かといって生足になりたくもなく。
とりあえずトイレットペーパーで拭ってみたものの、そんな生ぬるい方法で匂いが収まるわけがなかった。
コソコソと来客用のスリッパを手に入れてそれを履いてなんとかしようと自習室に戻ったものの、自分の足元からはやっぱりあの匂いが上がってくる。
もはや、隣のブースで勉強している人も不審に思うレベルの強烈な匂い。
わたしは、10分もしないうちにその日の勉強を諦めて帰途についた。
一番悲しいのは、その時隣に座っていたイケメンの秀才(模試の塾内順位がいつも1位か2位)とは、その少し前にあったひょんな事から軽い挨拶を交わす仲になっていたのに、その日を境に目も合わせてくれなくなったことだ。
絶対に足が臭いと思われた。
だから本当にカメムシは嫌いだ。
ついでだから、カメムシについて少し懐かしい話をする。
中学生の頃、明らからにわたしのことを好きな男の子がいて、よく2人で話をした。
ある日わたしの前の席に座って溜息をついたので、どうしたのか聞くと、
「親父とはしばらく話もしたくない、同じ空間に居たくないんだ」というので何があったのか聞くと、
話はこう。その男の子の家は、わたしの実家よりさらに山奥にあるので、(どこのうちもそうなんだけれども)亀虫が湧くと言っていた。
ある日の朝、お父さんがお味噌汁を飲む瞬間、そのお味噌汁めがけて亀虫が飛んで来たらしい。しかも2匹。
しかしお父さんはそれに気づかず味噌汁を飲み干した。
その日からお父さんの口からはものすごい亀虫臭がして、家族中がお父さんを隔離状態だったらしい。
その話で、その男の子を少し好きになったんだけど、結局何もなかった。
カメムシにもいろんな思い出があるけれど、いつだってカメムシは敵だ。
ps
みね子が、嘘をついた時の、鈴子さんの表情だけでの演技は本当に痺れました。