面白い話をしてって言われた話
先月の私の誕生日に彼氏と温泉に行った。
温泉に行く途中、結構長い山道を車で走らなきゃならなかった。
運転手の彼氏を飽きさせないために、山道に合う曲をセレクトして流しては、その曲の好きなところを話していたんだけど、だんだんネタも尽きてきたし、だいたい山道に合う曲でもなくなってきて、おまけに彼氏に「ラジオかよ」と言われたのでやめた。
多分5曲くらいしか流していない。
その時。
彼氏が「なんか面白い話して」と言った。
私はsiriじゃねえよ、とキレそうになったけどなんとかこたえた。
そのフリで本当に面白い話できる人今まで3人くらいしかみたことない。
ムカついたので、元カレの話をしてやろうと思った。
私と彼が出会ったのは15歳の春。中学校の同級生の紹介で、1つ上の学年の彼と知り合った。
最初は友達交えてあっていたのだけれど、だんだん気になる存在になってきて、私からデートに誘った。「バイクに乗せてください」ってメールした。
彼はバイクが大好きで、よく後ろに乗せてもらって、他の仲間とツーリングに行っていた。
初めて2人で会った時、彼はなかなか視線を合わせてくれなくて、落ち込んでいたけど、その日の最後に気づいた。彼の耳が真っ赤なことに。彼は照れていて目が合わせられないのだ。
そこで崖から突き落とされたみたいに、決定的に恋に落ちた。
よく覚えていているのは松島の海岸沿いを走ったこと。公園を見つけて、海に浮かぶ西日を眺めながら告白された。
初めてキスしたのも海。「あ、くじら!」と言われて海の方見たら、不意打ちでされた。照れ笑いがめっちゃ好きだった。
私が17歳になる誕生日、喧嘩をした。
きっかけは些細なこと。2人でご飯を食べ終わってコーヒーを飲んでいた時。何となく会話が落ち着いて沈黙だった。
別に私は沈黙が嫌いではない。
彼と一緒にいる空気が好きだったから。
なのに。彼は言った。
「うーん、なんか面白い話して!」
若い私は戸惑った。面白い話?私が最近笑ったことでいいんだろうか?でも、それが何で面白かったのか、うまく説明できる気がしないし、そもそも説明したら面白くない。かと言って、漫談のように器用にストーリーを瞬時に段取ることも出来ない。そもそも、これで滑ったら?私の誕生日が気まずい雰囲気で終わらない?
と、迷いながら、私は最近母が、山下智久のあだ名が山Pであることから、亀梨和也を亀Pと呼んでいる話をした。
そうしたら、彼は「え?あ、話終わり?あぁ…そうなんだ」と。
これが後々まで後を引き別れの原因に…
ここまできて彼氏がようやく、この話が作り話であることに気づき、私の妄想元カレ話は終わった。
人に、面白い話をして、という雑なフリをするのはやめましょうね。
彼氏は「でも、割と面白かったよ」と笑っていた。
私はお前のラジオじゃねえ
ま、いいけど。
全然山道に合う曲じゃない気がしてきた