瞬間の幸せ
同じ気温でも、何処からか風を感じて涼しい日と、奥から汗がじっとり滲み出てくるような蒸し暑い日とある。
今日は後者だった。
冷房の苦手な母が天下を取っている我が職場は、室内温度計が30度を指しても冷房をいれない。
だから、女子校時代みたいに、扇風機の前に行ってはスカートをパタパタさせて太ももあたりに纏わりつく湿気を払うのだ。
母には、みっともない、と言われるけれど気にしない。
大人になってスカートをパタパタさせるのは、なかなかに気持ちがいいと知る。
今日は、合間合間にこれを読んでいた。益田ミリの「泣き虫チエ子さん 愛情編」。他に何編があるかは知らない。
昨日ふらっと本屋に寄った時、湊かなえのを買おうと思ったのだけど、何だか湊かなえは読む前から不安になるので、中和させるものも、と手に取ったのが「泣き虫チエ子さん」だった。
この「泣き虫チエ子さん」は、結婚11年目のチエ子さんと、その旦那さんサクちゃんの日常を描いた、何にも起こらないマンガだ。
このチエ子さんとサクちゃん夫婦、私と彼氏にめっちゃ似ている。
基本的にチエ子さんがしゃべっていて、サクちゃんが「うん、うん」と聞いているところとか。
チエ子さんは何にでも感情移入してすぐ泣くけど、サクちゃんはそれがさっぱりわからなくて、でもチエ子さんはそれで全然構わないところとか。
チエ子さんの、割と身勝手で、すぐ勝手に怒り、そしてすぐにどうでもよくなれるところ。
サクちゃんの、何かを感じても、取り立てて深く考えず、感じる気持ちのまま、無理に気持ちを作ったりしないところ。
多分、いろんな人が読んで、その人その人で共感できるところがある本なんだろうな。
そうそう、これだ。と思った一連のキャプションがある。
チエ子さんとサクちゃんが、何でもない日に、ふらっと外食に出かけて担々麺を食べているとき。
チエ子さんはサクちゃんに
「サクちゃん 今さ 幸せ 何パーセント?」
と聞くと、サクちゃんは
「120パーセント」
と答える。そうすると、チエ子さんは
「あたしも‼︎」
と同意するところ。
チエ子さんにも
サクちゃんにも
それぞれ心配ごとや
悩みなんかもあるのでしょうが
ふたりは
瞬間の幸せを認められる
力を持っているのです。
わたしが、彼氏といて感じている「なんとなく」の幸せは、わたしにも彼氏にも、そういう力が多少なりとも備わっているからだと思う。
わたしが、彼氏に対して、一気に恋に落ちた瞬間、というのがある。
付き合った後の話なのだけども、
些細なことについて喧嘩した時だった。
喧嘩しつつも、夜ご飯を食べる約束をしていたから、近所の平凡な居酒屋さんに入った。
あまり話したくないから、特に相談せずに、それぞれ自分の食べたいものを一品ずつ頼む。
あれは多分彼氏が選んだのだと思うけど、「蟹入りだし巻き卵」という季節限定メニューを頼んだ。
料理を待つ間、お互い無言のまま生ビールをちびちび飲んでいた。
割とすぐに「蟹入りだし巻き卵」が出てきて、お腹が減っていたのもあって、ホカホカのそれを、2人とも同時にそれを口の中に入れたのだった。
その瞬間、思わず彼氏の方を見たら、彼氏も私を見ていた。
「蟹入りだし巻き卵」が、めちゃくちゃ美味しかったのである。
思わず、「めっちゃ美味しいね」と言ったら、同時に彼氏も同じことを言っていた。
その瞬間、なんとなく好きで付き合っていた彼氏のことを、間違いなく好きになった。気がする。
帰り道にきちんと仲直りをして帰ったその夜は、ドキドキして眠れなかった。
瞬間の幸せを、認められること、認め合えること。
それは、簡単なようで、多分みんながみんな誰とでもできることではない。
なんだか最近彼氏の話ばっかりしているけど、そういう友達もいる。
そういう人をちゃんと、大事にしたいなと思う。
どうしても、「嫌われたくない」気持ちが強くて八方美人になりがちだけど、決してそれは悪くはないんだけど。
本当に自分にとって大事なものは、「嫌われたくない」気持ちに押し流されないように、ちゃんとこの腕の中で守っていたい。
なんだか蒸し暑いと、考え方も少しべたつくな。軽やかでいたい。
マイベストシーンです。
仕事終わりの彼氏から、これから少しドライブしない?と誘われたので、二つ返事でついていく。
夏の夜は軽やかだ。