妹との約束
一昨日、妹が帰省してきた。
妹は東京で大学に通っている。
同じ高校から同じくらいのレベルの私立大学に入ったけれど、わたしとは割と反対。
真面目で友達が少なく、はしゃぐのも嫌い、お酒も嫌い。人といると疲れるらしい。
学生時代、遊ぶことと、ゼミでのディベートや本を読むことに時間を費やしたわたし(社会学部)とは違い、経済学部に通う妹は、遊ぶ時間もないほど資格取得の勉強、語学などの座学に時間を割いている。
東京の大学に進学したいと言ったはいいが、人ごみが嫌いで、23区外で生活を完結させている。
一番近く、大きい駅は立川駅だけれど、そこにすら行くのが億劫で、家族へのプレゼントなどはすべてネット通販で送られてくる。
嬉しいけれど、印字の「お誕生日おめでとう」はなかなか苦笑いものだ。
そんな妹はいわゆる腐女子で、彼氏どころか恋も一度も経験したことがないらしい。
地方女子校出身者というのは、多少の差はあれ男性慣れしていないものだけれど、それでも21年生きてきて多少さえ色めき立たないのは、もう他人からは手出しできぬ何かがあるのだと思う。
まだ妹は21歳だから、これからいろんな経験をしていけば、好きな人や彼氏がほしいという願望や、結婚願望が出てきたりするのかもしれないけれど、今のところそれらはゼロに等しい。
願望がゼロに等しいということは、きっとそれが叶うことは、さらに遠いところにあるのだろう。
私たちの両親は、色々他の生き方は認めてはいるものの「結婚こそ最上の幸せ」と信じているし、「結婚できなかったらかわいそう」と結婚したいとも思っていない人に向かって平気で言ってしまう人たちで、もちろん妹は、今から「結婚できなかったらどうしよう、どこからかお見合い相手を引っ張ってこなくては」などと心配されている。
それは、両親たちなりに妹の幸せを願っているのだけれど、どう考えても前述のような妹に、今から結婚を焦らせるのは可哀想すぎる。
もっといろんな人生があっていいはずで、妹はもっと自由に人生を想像していいはずだ。
現に、妹は自分の足でしっかり歩めるような資格を取ろうと必死に勉強しているのだ。
なのに、親があまりに結婚圧力をかけるせいで「結婚しなきゃ女として失格なのかな」とか言い出す始末。そんなわけないやろうが。アホか。
あまりに見ていられなくて、親に「そんなに今から結婚結婚言わなくてもいいんじゃない?何がそんなに心配なの?今はいろんな生き方があるし、1人で生きていて幸せな人だっているんだよ?」的なことを言った。
親の理屈は、
「結局は老後、誰も面倒を見てくれなくなるのよ。老いた自分を守ってくれるのは自分の子供よ。」とのこと。
実際のところ、わたしの母親は同居している自分の両親とは不仲だけれども、結局最期は面倒を見ざるを得ないだろうし、私も妹もいずれ可能な限り親の面倒を見るのだろう。
その心配の仕方はわかる。けれど、この先、子供を産んだからと言ってその子に面倒を見てもらえるとも限らないし、現に子供がいても孤独死する老人たちをたくさん見てきた。
けれど結局は、それは一部の話であって、やはり子供は産んでおいたほうがいい、と親は思うだろう。
ならば、言いくるめようか、と考えた。
そして、わたしは思いつきで口にしてしまった。
「わかった、そんなに妹の老後が心配なら、妹が結婚しなかったら、わたしの子供に妹の面倒を見させる。妹には、面倒を見れる資産と、わたしの子が納得できる財産を残してもらう。」
この提案に、妹が飛びついた。
「おねえちゃん大好き!よろしく!財産は稼ぐ!まかせて!」
結婚しない気満々だな。
まず、親の心配を私も妹もクリアするには私が2人以上の子供を産まなければならない。わたしが子供を産めない身体ならばそこでオジャンだ。
さらに、私の子供は、短期的か長期的かわからないけれど、老人の妹に縛られることになるだろう。それを、わたしは自分の子に強いることは、結局母がしていたことと変わらないのではないか。
そもそも、さっき書いたように、子供が必ず親や親戚の面倒を見る社会じゃなくなってきている。
親の論理の上で親を納得させるための半ば方便だし、懸念点は尽きないけれども、なんだか親の妹への結婚圧力は弱まった。
多分、私が妹に、もっと自由に人生を生きてほしいと思う思いが、少しは親に伝わったのだと信じたい。
私の子供が、私や妹の老後の面倒を見てくれることはあまり期待しない方がよいのだろうけど、いろんな可能性を考えながら、私も妹も自由に人生を生きていけたら一番ハッピーなのだ、と生意気ながら思う。
そして、自分の面倒を誰か(病院や施設も含め)に見てもらえるくらいのお金と信頼は貯めておかなくては。と思う。
それから、おそらく順番通りに行けば、祖父母を看取り、両親を看取るわけだけど、その中で、私も妹もゆっくり考えて行ければいいな。